法華経を二十一世紀人類のこころの柱に

                酒 井 日 慈
               (さかい にちじ)
               (池上本門寺第八十二世貫首)

 法華会創立九十周年、まことにおめでとうございます。

 終生「法華経」の講義を続けられた久保田正文先生が遷化されてから十数年が経ちました。法華会といえば久保田先生を連想しますが、実は法学博士山田三良東京帝国大学法学部教授と小林一郎中央大学教授、そして矢野茂大審院検事の三先生が明治大帝崩御後の日本の将来を憂いて創始された会であることを聞いております。

 その法華会の活動が、大正三年から今日に至るまで絶え間なく継続されてきたことに心から敬意を表します。

 わたくしは、「法華経」のこころがもっともっと多くの人々に浸透していかなければならないと感じており、同じ志をもつ人達と共に「南無の会」をはじめたのも、少しでもその思いを実現したかったからであります。幸いにも小さな灯が多くの方々のお力で光りを増して、今ではわたくしの手の届かないところにまで活動が展開されていることを有難く思っております。

  池上本門寺は、鎌倉時代に日蓮聖人が「本門の法華経」を宣布されて以来、宗門の一大拠点として法灯を護持して参りました。
 そして、法華会の発足以来、その中心となられた方々をはじめ、会員の皆様とも深い御縁をいただいております。

 さらに近年、雑司ヶ谷・本納寺住職・立正大学院講師の桐谷征一師の発願によって、師の岳父、立正大学教授・法華会理事であられた故兜木正亨先生のコレクションが奉納されたことは本門寺の誇りとするところです。

 ご承知のように、兜木先生は「法華版経」研究の大家であられ、中国・日本の研究にとどまらず、遠くパリやロンドンの美術館や博物館に所蔵されている敦煌伝来の「法華経の写経」を整理されたことで有名ですが、パリ美術館の東洋部長が訪日された際、ティッシュを細かく裂いて、それを復元する作業を見せながら、こう言ったという逸話があります。「兜木博士は、細切れになった法華経の古い写本を、たちまち元どおりに復元してしまった。それはまるでマジシャンのようであった」と。

 今、全世界に保管されている「法華経」を単なる資料として死蔵してしまうことはまことに惜しまれることです。世界各国が互いに自国の利のみを主張し合って争いの絶えない現状を見るにつけ、「法華経」の精神がより多くの人々の指針となるよう、お互いに努力を重ねてゆかねばならないと思うものであります。

  法華会の一層の充実
と発展をお祈りします。

仁王門
本堂
池上本門寺の写真(クリックすると拡大します。)
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